第二章 天使の街

 俺達が東門に着くころには日はだいぶ西に傾いていた。
「すっかり遅くなっちゃったわね……」
  俺の前を飛行していたリムエルが緩やかに速度と高度を落としはじめる。
  雲の下に真っ白な城壁と門が見えてきた。
  俺達は翼の具現化を解いて東門のすぐ側に降り立った。
  真珠のような輝きを放つ巨大な門。
  その両端からは同じ輝きを放つ塀が延々と続いている。
  門の両側には二人の天使が警備にあたっているが、彼らは人間の抱く『天使』のイメージとは似ても似つかないだろう。
  五メートルを越すその巨体は分厚い鎧に包まれ、天使の象徴である白い翼も無数の鋼で覆われている。
  所持している戦斧は一振りで堕天使を数十人まとめて粉砕する事が出来そうだ。
「彼らも能天使よ」
  俺が二つの巨大な鉄塊を見上げているとリムエルが俺の隣に来てそう言った。
「門番には正規の能天使から特に体の大きい者が選ばれるの。
  あぁ、正規ってのは、破壊の天使以外の能天使って事ね。
  私達は天使っていっても破壊と殺戮の為に創られた天使だからね。
  普通の天使からは忌み嫌われてる存在なのよ」

 しれっと他人事のように言うと、彼女は門の方に近付いていく。
  二人の門番は地響きを轟かせながら姿勢を正し、リムエルに対しうやうやしく敬礼した。
  彼女は軽く会釈して、さっさと門の内側へ入っていく。
  巨大な鉄の塊みたいな兵士が、小柄な雌型の天使に敬礼する様は違和感ありすぎて自然と笑いがこみあげてきた。

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